平成9年・10年度の2年にわたり調査研究を実施したが、基本的には北海道南西部の神社祭祀の分布調査を中心に、水神がどのように祀られているかについて調査を実施した。また、道内との比較のため、東北・北陸・山陰・九州北部など、近世から北海道と関係の深い日本海沿岸の地域を含めて調査を行った。その結果、調査研究項目は以下の通りに整理された。 1. 1872(明治5)年におこなわれた北海道南西部の社寺調査の報告である神社取調書を史料とし、516柱の祭神を抽出し、水神にかかわる祭神の分析を行った。これまで北海道における神社祭祀の研究が、地域的にも時代的にも分断して、統計的に大半を占める稲荷社、厳島社、恵比寿社、金比羅社、龍神社などの祭神や神社を検討し、鰊など漁労にかかわる地域で数量的に多く祀られることが特徴であるとの指摘に終始していた。しかし、今回、明治初期の神社取調の事例をデーターベース化するとともに勧請年を中心に編年化し、それぞれの神社祭祀形態を比較検討した結果、祭神は単一ではなく複合的に祀られていること、しかもそれぞれの地域において重層的に積み重なって定着していたことを明らかにした。 2. 研究を進めるにあたり、従来までの研究状況、到達点、問題点、解明すべき点などを整理し、稲荷信仰など量的に多い信仰を取り除くことで、川下神社、龍神社、海神社など水神と認識される少数の祭神を祀る神社が、北海道南西部で特色のある構造で祀られていることが判明した。 3. 18世紀中頃には、北海道や北陸地方など北前船交易で関係の深い地域において、疫病などの穢れを祓うために、水月(水無月)祓いを行う神社を勧請している。この水月社は、後に川下、川裾、川濯神社と川にまつわる水神として祀られるようになったことが理解できた。
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