本研究は、大宰府による西海道支配の特質に迫るために、既知の文献諸史料だけではなく、埋蔵文化財関係資料、歴史地理学的諸資料などをはば広く収集して、8〜10世紀の西海道諸国の地域像の再構築をはかり、これらの地域社会の支配にあたる国司と、国司を統括する大宰府との軋轢・矛盾・葛藤を考え、さらには文献資料とフィールド調査での諸情報とを有機的・構造的に理解する方法論的枠組みの確立をめざすものである。 こうした課題を追求するため、『続日本後紀』写本の収集、観世音寺資財帳の調査等を実施する一方、具体的なフィールド調査の対象地を設定して調査を実施するとともに、出土文字資料の収集に努め、次頁の既発表論文や報告書所載の「西海道地域における墨書土器の研究とその集成(稿)」などを作成した。不充分さは残るが、九州における文字資料の出土状況の把握、埋蔵文化財調査やフィールド調査を通した地域社会の実態的把握という初期目標はおおむね達成しえたと考える。 とくに『史学研究』掲載論文は、本研究の目標のひとつであった既存の活字史料と歴史地理学的調査による情報を有機的に理解し構造化することをめざした論文である。「続命院」創置という歴史事象に関する活字史料をフィールド調査の情報と結合させて解釈することにより、既存の史料がより具体的に理解しうることを証明したものと考える。
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