平成10年度も、前年度に引き続き関係資料の調査・収集を進め、徳島の吉野川流地域の藍作地帯をフィールドに、藍の集散地として栄えた脇町に暮らした幕末期の女性の日記を解読する作業を進めた。「桜戸日記」と名付けられた全5冊の日記の内、保存状態があまりよくない第3巻をのぞいて4冊の解読を終了した。そして、これらの日記から読みとれる筆者の隠居女性が形成している親族や俳諧の友人のネットワークと、彼女が属する諸集団の中での彼女の位置づけについて論考をまとめ投稿中である。 また、彼女の実にのびのびした生活ぶり(旅を楽しみ、芝居を見、趣味の俳句の友人たちと語らい、おいしい物を食べ、酒も飲む。普段は近所の子どもたちや孫に読み書きを教え、友人たちと文をやりとりする。通常、家父長制の家の中で忍従の生活を送っていたと思われている女性の生活とはまったく違うものである)は、一人彼女だけの物でなく、地域社会にそれを可能にする文化サークルがあるからと考え、そうした文化サークルで活動していたことが確認されている同時代の男性の史料を収集した。この史料からは、女性も男性と差なく活動が出来たサークルの組織や運営を明らかに出来る可能性がある。
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