いわゆる戦時体制期の日本においては、各方面において大幅な改革と変容が進行した。それは狭い国内にとどまらず、台湾、「満州」以下の中国、そして東南アジアなどの占領地や植民地をも巻き込んだ。その中軸をなしたのが、産業の再編成と労働力の再配置であった。労働力の再編成に関連して、朝鮮人や中国人の強制連行という問題が起こったが、国立国会図書館憲政資料室にあるGHQ/SACP文書のうち、M1722の15巻のマイクロフイルムやLS(法務局)文書から関係史料を摘出し、ほぼリスト化を終えた。それらをもとに、中国人被強制連行幸存者の聞き取りを若干行い、裏付けがとれつつある。各地で聞き取りを行っているヴォランティアの団体・個人と接触してデータ交換を行い、また、ようやく増えつつある関連分野研究者との交流も実行し得るようになった。 戦時体制期の政治的経済的改革については、何といっても東大図書館・美濃部洋次文書が宝庫だが、おおよその見当はついたものの読み込みはあまり進まなかった。 京都大学の経済学部などの書架を漁ったところ、戦前期の日雇い労働者関係の文献(主として関西以西だがそればかりではない)を見つけることができた。 戦時体制期に噴出した排外主義的な価値序列的構造が、実は近代日本の初期、明治時代頃から次第に造られていったものである、という認識が今年度の最終的成果である。それが、下層労働力の蔑視、戦争への動員(熊本県立大学図書館で日清戦争時の軍夫関係の原史料を確認した)、他民族の強制連行と重労働強要などを許容していった、最初期の要因をなしたと考えられる、というのが現段階での結論である。
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