頼み証文は、近世百姓の間に成立した委任・依頼文書で近代の代表委任など委任状の前提になる文書である。頼み証文の内容・形成過程を、その背後にある社会的結合の展開に配慮しつつ分析をすすめることにより、近世百姓の社会的結合のあり方が明らかになることが期待されるが、この文書形態の意義と存在が注目されるようになったのは、ごく最近のことであった。そこで頼み証文の集成・データベース化により、その全貌を把握する必要があると考え、その集成を試みた。 こうした調査の結果は次のようである。頼み証文は、頼みを証文にすることから、はじまったので、当初は内容が選考して様式や名称は定まっていなかったが、主として東国に生まれて発展したもので、やがて頼み証文という認識と名称、それにふさわしい様式が形成されていくことになった。また形式整備は、関東において最初にすすんだとみられ、つづいて甲信越、上方へひろがり、東海、北陸、東北などにおよんだ。頼み証文の呼称は、一般には頼み一礼・頼書・頼み状であるが、関東・甲信越地方にのみ、頼み証文の呼称がはやくからおこなわれていた。また中国・四国・九州・東北でも現在の福島・山形県以北はほとんど発見例がなかったことがわかる。 その概略は、拙著『近世の百姓世界』(吉川弘文、1999年6月)第2章「人と人のきずな」に示した。またデータベースは、整理がついたものを第一次分としてホームページ(頼み証文データベース:personal.kanazawa-eco.ac.jp/tatsuo/)で公開した。
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