本年度は、以下の基礎調査と史料整理、校訂及び考察を行った。 1、 本朝月令について、宮内庁書陵部に所蔵する鷹司家旧蔵本・勢多章甫旧蔵本及び国立公文書館所蔵に所蔵する内閣文庫本三本(紅葉山文庫旧蔵本、林家旧蔵本、享保年中献上本系本)を再調査するとともに、新たに宮内庁書陵部所蔵の九条家旧蔵本を調査した。その結果、九条家旧蔵本は建武3年以前、おそらくは鎌倉時代に溯る書写本で、現存する本朝月令諸本中の最古写本であり、しかも近世に転写された11本の諸本の祖本にあたると考えられることを確認した。 2、 上記の諸本のほかに建武年間前後に抄出書写された前田尊経閣文庫本をはじめ、これまで調査した本朝月令の諸本16本について紹介し、その書写系統及び伝来の過程を考察した。拙稿「本朝月令の諸本」(『皇學館大学神道研究所紀要』15、平成11年3月) 3、 1・2の基礎的調査と考察を踏まえ、新しく本朝月令の校訂本を作成した。これは現在流布している群書類従本、新校群書類従本にはテクストとして問題点が少なくないことを考慮してのことである。これによって、本朝月令に引用されている平安時代中期まで存在した典籍の本文校訂及び古書珍籍の正しい逸文拾遺に貢献するであろうし、本研究課題の推進にも有益であると思われる。 4、 延喜天暦期の儀式の特徴を考察するためには、その前代との比較を必要とするので特に清和天皇から光孝天皇朝までの朝廷儀礼の実態も視野に入れ、関係記事の基礎的データを収拾整理した。当該期の宮廷儀式の変化は、内侍と蔵人の職能の変化発展と密接に関わりがあるとみられるが、史料的な限界もあるものの今後の課題である。
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