本年度の研究業績としては、まず第一に居延の図版カード化があげられる。当初の研究計画では新居廷漢簡のみを対象とする予定であったが、作業の進行にともない旧居延漢簡についても整理する必要を感じたため(新旧両簡は同一遺跡出土のものを多く含む)結局、両者あわせて約2万枚をカード化することにした。具体的には、漢簡の図版を切り抜き、簡番号や出土地を記載した台紙に貼付する、という作業をおこなった。これによって個々の木簡を一通の文書(ないしはその断片)として扱うことが可能となり、漢簡の古文書学的研究に向けての基礎作業が完成する。 第二に、居延・敦煌漢簡の出土地である漢代西北辺境、エチナ河・疏勒河流域の踏査経験をもつ現地研究者を訪問し、研究方法と成果とについてレビューを受けたことがあげられる。その結果、我々の方法がもつ体系的・帰納的側面の有効性を確認しえた一方で、遺跡の構造や分布状況、立地条件などへの配慮を欠いた研究がいかに危ういものであるかを、改めて痛感するに至った。 こうして得られた各種の情報は、漢簡研究に考古学的な視点をも加味するという本研究の課題にとって、きわめて重要な意味をもつことになるだろう。 漢簡データベースの改良については画像処理の問題を含めて引き続き検討中であることなどを、あわせて記しておきたい。
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