本年度の研究業績としては、まず居延漢簡データベースの整備があげられる。これによって2万点の居延漢簡を対象とした1字検索が可能となり、漢簡資料の正確な訓話はもとより、文書形式の比較考察にとっても大きな進展が望めるようになった。昨年度の成果である図版カードと併用することで、木簡の形態・書体・書式の三者を勘案した古文書学的研究が完成する。 第二に、台湾の中央研究院を訪問し、担当研究者から研究方法についてのレビューを受けたことがあげられる。同研究院は旧居延漢簡を所蔵し、近年その基礎研究を精力的に進めている。その結果、漢簡のような出土文字資料の研究には、原簡写真は言うに及ばず、現物の、それも赤外線カメラを用いた検討が不可欠であることを痛感した。むろんこうした検討は、実物を所有しない日本の研究者には不可能であり、我々は彼らの成果の公表を鶴首して待つよりほかにない。しかし、たとえ写真といえども決して盲信しないという姿勢を学びえたことは、貴重な収穫であったと考える。またあわせて、漢簡を考古資料として扱うことの必要性を、改めて認識することができた。
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