この3年間、侯外廬著『中国封建社会史論』(北京・人民出版社刊、1977年)の内容を全面的に検討し、著者の考えた「封建社会」というものの本質論、およびアジア社会におけるその特殊性、とくに中国社会においての理解について多方面から検討した。この書は紀元前3世紀から18世紀におよぶ中国社会史を対象にしており、またマルクス主義者としての立場からマルクス・エンゲルス、レーニンの著作からきわめて多くの文を引用し、解釈している。したがってこの研究の作業としては、広範な書物の検討が必要であり、歴史学のみでなく、哲学・社会学・経済学等の多分野の知識を動員することが要請された。主な検討内容は次のとおりである。 1.著者が依据するマルスク主義の古典における「封建社会」というもののとらえ方について、原典にあたってその引用個所を逐一あたり、検討した。 2.本書で引用されている中国古典について、逐一原史料にあたり、その史料的性格、社会史の史料としての意味について検討した。 3.著者独自の用語法について、社会科学の理論から、また言語学的方面から検討した。 この書物のうち、特に第3論文として所載する「秦漢社会の研究」(中文で約80頁)について特に集中的に検討し、研究報告書として前文の邦語訳と、訳注および簡単な「訳者あとがき」を付したものを作成した。
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