平成10年度の研究計画は、まず第一にモンゴル文・満洲文による裁判文書群の転写・全訳を継続するに当たって、入力補助機としてノートパソコンを導入して作業効率を高めることであった。そして第二に、裁判文書書式の抽出に取りかかるとともに、昨年度に引き続いて日本における漢文文書研究の伝統を正確に把握することであった。第三に、これも継続して清朝の各時期における満・漢・蒙文による法典資料をマイクロ焼き付けで収集し、引用条文の確定に着手することであった。このうち第一の計画は、幸いにしてほぼ予定通りに進み、ノートパソコンを併用した転写文・訳文の入力作業が進行しつつある。また、満洲文の転写に用いる特殊な文字の新たな作成も、昨年度と同じ専門家の協力によって完了した。第二の計画に関しては、書籍購入費用が完全に不足して、唐代や清代の中国で用いられた漢文公文書を詳しく分析した研究書はその後全く収集することができなかった。最低限の準備しかできず、昨年度の成果を利用するしかない。しかし一方で第三の計画は着々と進行し、東京の東洋文庫から新たに満洲文の道光版理藩院則例をマイクロフィルムで取り寄せた結果、漢文版と満文版とに関しては、最低限の法典がほぼそろった。既に引用条文の確定にかかりつつある。残る蒙文版理藩院則例は来年度収集する予定である。以上、平成10年度の研究進行の結果、かなりの分量の裁判文書を転写・全訳・分析することができ、現在もこの作業は進行している。11年度は、転写・訳注作業に一定の区切りをつけて、本格的に満・蒙文文書の書式を分析し、漢文文書との比較によって書式の来源を確定することが課題となる。そして年度末には、報告書を出版する予定である。
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