平成11年度の研究計画は、まず第一番目にモンゴル国で出版されている文書書式の研究書を読解し、モンゴルにおける研究状況を把握しておくこと。二番目に、コンピューター入力による転写・全訳作業を継続すること。三番目に、満洲文・モンゴル文の文書群と中世以来の漢文文書群との具体的な比較検討を実施すること。四番目に、満・漢・蒙の三言語にわたる各時代の法典をマイクロ焼き付けにて取り寄せ、判決文で引用・適用されている種々の条文を一つ一つ確定していくこと。以上の四点であった。 この内、一番目については、最も重要なノロブサンボー氏の著作を読解し、モンゴル国での書式研究がやはり漢文文書の伝統を完全に無視して、モンゴルでの伝統しか認識していないことを確認することが出来た。二番目に関しては、ある程度継続できたが、やや時間不足となってしまった。三番目に関しては、予算不足で研究書の収集が全く出来なかったが、私費で中国のすぐれた研究書をかなり収集した。四番目に関しては、アメリカのハーバード・エンチン図書館から乾隆期の古い貴重な漢文版蒙古律例を、またパリのフランス国立図書館から満洲文の蒙古律例刊本を、それぞれ苦労しつつもマイクロフィルムで取り寄せることができ、大成功であった。 これらの作業によって満・蒙文文書の書式の起源がやはり中国本土での書式にあることが徐々にはっきりとしてきて、モンゴルでの裁判の意外なほどの遵法状況も取り寄せた諸法典から確認することができた。そして同時に、モンゴルやドイツを中心とする従来の文書研究・書式研究が、モンゴル地域のみのいかに狭い枠組みの中だけに限定して考察されてきたか、という問題が改めて大きく浮かび上がってきた。以上の結果をふまえて本年度末に一且研究を完成させて、報告書を作成、出版した。
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