1999年は3年度(完成年度)にあたるために、訳注1点、論文3点を発表、さらに研究成果報告書1篇、訳書1冊を刊行した。まず訳注として、本研究にとって基本的な史料『漢書』の撰者班固の伝記の訳注を作成、とくにその詩賦の中に披瀝される彼の思想の片鱗を究明した。ついでその結果を踏まえ、班固の思想の母胎を形成する漢堯後説・漢火徳説・『左伝』・緯書の4つの特色を取り上げ、それぞれに内在する問題について吟味した。すなわち漢王朝を堯の後裔であるとする説は、『左伝』の記事を典拠としてはじめて成立するものであり、しかもそれは前漢末期に発生した特殊な理論である。また漢王朝を火徳の王朝に配当するという理論も、同じく『左伝』を一節を論拠としてのみ成立するものであるが、本来堯は火徳の王に相当すると位置付けることが不可能であったために、本来の五帝徳を歪曲して作成された非正統的な所説である。ついで『左伝』と緯書もまた前漢末期において注目されるにいたった思想であるが、二者はつねに疑問褐、異端視され、後漢を通じて一慶たりとも正統の学問と見なされることはなかった。以上の2論文は、班固は如上のような偏頗な思想に立脚して『漢書』を撰述したことを論証したものである。一方、『塩鉄論』を主題とする2篇の先論の完結篇として執筆されたのが、「塩鉄論議後史」である。この論議中に露呈される政争とその帰趨こそが、儒教の勝利と法家の敗北を決定付けた結果、ついには儒教の国教化にいたる一段階が形成されたことを論証した作品である。 他方、科学研究費補助の成果として、「儒教の国教化(稿)―日本における学説史・研究費の整理―」を一書として公刊、研究課題である漢代儒教の史的研究の基本的作業の一環とした。なお別に前漢・後漢に関する未邦訳の二書を撰択し、その全文の語釈・解説などを完成、3月末日に出版の予定である。
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