3年間にわたる研究成果の概要は、裏面に列記した研究論文の各題目が示すように、大別して、I.董仲舒の再検討、II.『塩鉄論』の基礎的研究、III.班固と『漢書』に関する再考察の3点に要約される。まずIとして、(1)において、従来未解決であった董仲舒の対策を主題とし、それを漢代の公式文書の形式を復元することによって、その疑問点を提起した結果、その全文を董仲舒の対策と認定することはできないということを論証した。それと同時に(4)において、『史記』『漢書』に収録される董仲舒伝を対比検証し、董仲舒が儒教の国教化に貢献した学者であるとする従来の定説は、成立しがたい誤伝であることを考述した。つぎにIIにおいて、(2)・(3)の論文を発表、『塩鉄論』の内容を分析して、この史料は外朝・内朝の政治的抗争と法家・儒家の思想的対立を反映したものであることを立証し、この論争における儒教の勝利と法家の敗北が、結局、儒教の国教化にいたる一段階を形成する原因となったと主張したのが(7)の論文である。さらにIIIにおいて、(5)・(6)の論争を公表、班固は漢堯後説・漢火徳説・『左伝』・緯書の4点からなる思想の持主であるが、これら4点はいずれも前漢末期に発生流行した特殊な運輸や史料であることを**した。そしてこの観点から考察するとき、班固はこれら非一般的、非正統的な思想に立脚して『漢書』を執筆したものであり、その結局、董仲舒による儒学の官学化という記事は、このような片*な班固の歴史観によって造作されたものであることを論述した。中国の思想史上著名なこの董仲舒による儒教の国教化という従来の定説は、今後、あらためて再検討されなければならないであろう。 なお以上の諸問題をめぐって、科学研究費補助の成果の一端として、「儒教の国教化(稿)-日本における学説史・研究史の整理-」を付印、冊子として公刊、如上の諸研究の総決算としている。
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