本研究は、古代朝鮮史の基本史料とされてきた『三国史記』『三国遺事』を広く東アジア史地域史研究の共通のテクストとして活用できるよう、その原文をパソコンに入力し、さらにデータベース・ソフトに組み込み、原文の訓読、注釈、解釈といった作業を進めてゆくための基盤を整えることを目的とする。出来る限り信頼性の高い定本と訳注を作成することによって、日本史、中国史研究者とともに、これらのテクストを共有し、古代東アジア地域史を構築していくための足がかりがとすることをめざしている。今年度は、まず定本として高麗中宗7(1512)年の刊本(学東叢書・学習院東洋文化研究所刊)を用いてパソコンへの入力をおこなった。とりわけ『三国遺事』は異体字が頻出するために、必要に応じて字句の用例の比較分析を重ね、同時に原文の注釈、通訳を進めつつ、それらの文字の確定作業をおこなった。すでに一部の入力作業を進めてきたこともあって、『三国遺事』は王歴を除いた全文を、『三国史記』は新羅本紀、高句麗本紀、百済本紀、列伝の入力を完了させた。あわせて、内外の『三国史記』『三国遺事』の版本、訳注研究、及び研究文献を広く収集し、文献目録の作成をおこなった。 これらの過程で得られた知見は、『東アジアの王権と交易-正倉院宝物が来たもうひとつの道』(青木書店)、『古代東アジアの民族と国家』(岩波書店)、「韓国の木簡について」(『木簡研究』19)において、引用史料の解読、補正などに活用した。 来年度には、入力作業を完了させ、作成したテキストのデータベース化、一字索引化をおこない、定本、索引は冊子としてまとめる予定である。
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