本研究では、北宋朝の首都であった河南省開封、唐代後半から急速に開発がすすんだ浙江省寧波、三国時代蜀漢の国都となって以降、この地域の政治・交通・経済・文化の中心地となった四川省成都の三都市をとりあげ、各都市の生成・発達と水利の関係を考察し、地域及び性格の異る都市水利の特徴を類型化することを目的としている。 最初に、「95中国城市水利問題:歴史与現状国際学術討論会」を総括することによって、都市水利史研究の現状と課題の整理をおこなった(中国水利史研究25)。次いで、96年8月、寧波で開催された「它山堰曁浙東水利史学術討論会」での発表論文「宋代明州〓県的開発和水利問題」(『它山堰曁浙東水利史学術討論会論文集』)をベースとして、寧波の都市化と水利の問題に取り組んだ。その成果は「唐宋期における浙東〓県の都市化と它山堰」(中村学園研究紀要30)にまとめた。 並行して、成都及び開封についても、静嘉堂文庫、東洋文庫、東大東洋文化研究所などで、漢籍史料及び研究文献の蒐集につとめ(継続中)、考察を進めている。とくに、成都の都市水利史研究については、日本では皆無に近く、この研究のもつ意義は大であると思われる。 98年度には、これらの各都市水利史についての研究成果を学会報告または論文として発表し、99年度中には、三都市の開発・発展と水利の関係を類型化し、纏めたいと考えている。 これらのうち、開封は黄河と大運河〓河の交通の要衝地に当り、治水という水利問題を抱えながら成立し繁栄を誇った。寧波は它山堰構築によって都市水利の自在なコントロールが可能になって発展した。成都は戦国時代に岷江上流に完成した都江堰によって水害を減じ、灌漑・河運の便を促し発展してきた。
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