19世紀末から20世紀初頭におけるバ-ミンガム、ミッドランド地域のリベラル・ユニオニストと保守党関係資料を用いて、当時の政策争点として重要な意味をもった自由貿易・関税改革問題に注目しつつ、地方支部組織の1906年1月ならびに1910年1月総選挙での選挙運動実態に関する検討を行った。 アイルランド自治問題を契機に形成された一政治党派のリベラル・ユニオニストと保守党がこの政策問題をめぐってそれぞれ内部分裂を起こし、リベラル・ユニオニスト内ならび保守党内の関税改革派が主流を占めて接近して行く過程を跡付けた。そうした作業を通して、関税改革問題という政策争点が保守党の政治基盤を変化させ、よって政党政治体制を新たに再編成して行くダイナミズムが明らかとなった。 こうした地域的動向を保守党の社会的基盤に即して立ち入った検討を加えること、保守党の全国レベルにおける動きとどのような関連を有していたかを検討すること、そして、そうした保守党の変化に影響を与えた(あるいはそれを反映する)保守主義思想の動向を明らかにすることが次年度以降の課題である。 なお、イギリス社会の保守主義的性格把握を基礎にその経済的特質を独自の視点から再検討している「ジェントルマン資本主義」論の著者による日本での講演を翻訳する機会を得た。その学説は、世紀転換期におけるイギリス保守主義政治と経済との関係、内政状況と対外政策との関わりをめぐって新たな枠組みを提示しており、イギリス保守主義研究にとって有する「ジェントルマン資本主義」論がもつ意義とそこに孕む問題点を考察した。
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