世紀転換期のイギリス自由党・自由主義に関する研究史蓄積の成果ならびにドイツ「社会帝国主義」論をめぐる論争を踏まえ、自由党・自由主義に対する保守党・保守主義の歴史的変化とその特質、さらにはそこに見られるイギリス的な特徴を明らかにする作業を行った。 19世紀末以降のイギリス自由主義と自由貿易をめぐる近年のハウ(A.Howe)、ビアギニ(E.Biagini)、トレントマン(F.Trentmann)の研究を検討する中で、当時の自由主義思想において自由貿易が「モラル・エコノミー」的機能を有していた実態が明らかになり、自由貿易政策に対する大衆的支持の強固さとその社会的基盤が確認された。他方、ドイツ「社会帝国主義」論の影響を受けたグリーン(E.H.H.Green)の研究やイギリス保守勢力・右派勢力をめぐるサーレ(G.R.Searle)サイクス(A.Sykes)等の論争をフォローし、保守主義勢力と右派勢力を概念的に峻別する意義、議会主義に対するスタンスの問題とこれら勢力配置のドイツとの比較を中心に考察を行った。 このような研究史上の論争や研究蓄積の検討を踏まえて、政治の底辺レベルから全国政治に向けられる視線の有り様とそれに対応する保守主義思想の潮流という視点から、保守党とリベラル・ユニオニストの政治基盤動向の分析ならびに関税改革をめぐる保守主義思想に関する考察という3年間の研究成果を纏め、世紀転換期の保守党・保守主義の歴史的な位置づけを明らかにする作業を行った。なお、本研究に関連して、世紀転換期イギリスの保守主義勢力による植民地統合構想とヨーロッパ諸国との係わりを課題とする論稿を発表する機会を得た。
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