研究概要 |
1.「説得」の現象とその含意するところを、ギリシャ・ラテンの諸史料より探り出すことを試みた。特にキリスト教が生まれたローマ帝国で書かれた史料,ディオ・クリュソストモス、ルキアノス、小プリニウスなどの研究から、ローマ帝国人の人間関係において「説得」というものが果たした役割を研究した。この成果は、ローマの地中海支配の歴史と結びのけて考察し、「インペリウムの名のもとに-ローマ人が支配した地域-」として公表した。 2.キリスト教史料における、司教は教父たちが行っていたと見られる「説得」の概念とその現実化を研究した。そのために特にイタリアの貴重な学会誌であるAnalecta Bollandianaのバックナンバーの一部を購入し、研究することができた。これらキリスト教史料からは、ローマ帝国社会内の異端的少数者であるキリスト教徒が、用語や概念、そして彼らの知識の表現方法において、ギリシャ・ラテンの文学と文学者のそれをそのまま受け継ぐ面が顕著であることを確認した。 3.古代末期の皇帝、社会上層民の役割と、キリスト教野歴史の劇的変化に伴う司教の地位の上昇について、東京大学等の研究者との交流により研究を進め、古代地中海世界の都市の衰退と、皇帝と上層民の巨大化及び司教の社会的影響力の成長が深く関係することを明らかにした。そしてその中で、ギリシャ・ラテン文学の教養は継承され重視され、それの表現である修辞、つまりは「説得」が依然として社会の人間関係の間で重要な役割をはたし続けており、それを司教たちも共有したことを観察した。
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