1.「説得」の現象とその含意するところを、ギリシャ・ラテンの諸史料より探り出す作業を継続して行った。9年度は、主として本研究が主対象とする4世紀社会の前段階として、2〜3世紀の、非キリスト教史料に重点をおいたが、10年度は3〜4世紀のキリスト教史料を取り上げ、関連する研究文献の購入、検討を踏まえつつ、教父キプリアヌス、テルトゥリアヌス、ラクタンティウス、エウセビオスらの著作を研究した。そこから、キリスト教教父たちが、古典時代以来のギリシャ・ラテン文学の伝統を重視し、キリスト教弁証を伝統的な「説得」のスタイルで行おうとしたことを推定できた。 2.ローマ帝国社会と初期キリスト教徒の関係、特に後者がギリシャ・ローマの都市社会の影響を深く受け、自らをその一員と位置づけていたことを、政治・社会・分化の面でもあとづけることを試み、関連文献を検討した。キリスト教徒が帝国社会において特殊で独特なものを示したことが明らかになると共に、都市の文化・慣習を共有しようとしたことをも推測した。 3.キリスト教徒の中で最も「説得」と深く関わったのは、教父と司教であったが、10年度は幸い米国プリンストン大学P.ブラウン教授が来日し、司教の果たした社会的な役割についての研究交流を行うことができた。また11年度にも、来日した連合王国オクスフォド大学前講師B.レヴィックと、ローマ帝国社会史に関する研究交流と情報交換を行った。 4.設備備品費により、Analecta Bollandianaのバックナンバーなど、初期キリスト教史・ローマ帝国社会史に関する多数の文献資料を購入できた。また上記外国人学者のみならず東京・京都等の大学研究者と活発な研究交流を実現できた。 5.研究の成果は、なお4世紀の時代の司教と説得の問題については十分とは言えないが、先立つ時代についての成果は別紙のように4編の論考として公表した。また日本基督学会及び日本西洋史学会において口頭発表を行っている。
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