本年度は、これまで行ってきたマラヤにおける脱植民地化についての検討を続けるとともに、ケニアおよびキプロスの脱植民地化過程に関する文献を中心に、資料・文献の購入を行い、分析を進めた。また、機動的に資料整理を行うためのノートパソコンを購入し、関連論文についてのデータベース構築を行った。さらに、平成9年7月には名古屋大学の佐々木雄太教授を中心とする国際政治研究グループと、冷戦と脱植民地の関連についての討論を行い、9月には英帝国史研究の代表的研究者、ジョン・マッケンジ-教授(ランカスター大学)およびジョン・ダ-ウィン博士(オクスフォード大学)と、脱植民地化研究についての意見交換を行った。これらを通じて、第二次世界大戦後のイギリス帝国においては、「新たな帝国主義」と呼ぶことのできる、帝国支配への関心の強化が見られたこと、その関心のあり方は、マラヤ共産党の蜂起や「マウマウ団」運動といった反英民族運動が起こったマラヤやケニアにおいて特に顕著に示されたこと、それらの地域では急進的な民族運動に弾圧の焦点を絞ることによってイギリス側が「健全なナショナリズム」と位置づけていた勢力との「協力」関係の再構築がめざされたこと、このような「新たな帝国主義」が冷戦の展開と重なりあうことによって、冷戦のレトリックが帝国支配維持の目的のために積極的に用いられたことなどが確認できた。同時に、第二次世界大戦後の国際関係史におけるイギリスの位置の微妙さ、すなわち米国にさまざまな面で依存しつつも、世界大国としての意識を強くもって米国と競合する姿、も改めて確認できた。ただし、本研究の眼目である比較という面での解明はまだ不足しており、その点をさらに追求していくことが2年目以降の課題となる。
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