本年度は、イギリス帝国の脱植民地化に関する最新の研究文献とともに、比較の対象としてフランスの脱植民地化をめぐる文献をも購入し、昨年度購入した資料・文献もあわせて、他帝国との脱植民地化の比較研究を行うための理論的枠組みについての検討を主として行った。その過程で、平成10年9月には、A.G.ホプキンズ教授(ケンブリッジ大学)と、また11月にはAndrew Porter教授(ロンドン大学)と、英帝国史、とりわけ脱植民地化をめぐる討論を行い、平成10年7月には、「南アジアの構造変動とネットワーク」に関する共同研究グループのメンバーを対象に、脱植民地化の理論的枠組みについての報告を行った。また脱植民地化と「帝国意識」については、とりわけ英帝国と日本の帝国についての比較研究に取り組み、その成果を、木畑洋ー編著『大英帝国と帝国意識』として刊行した。ここではフランス帝国との比較について述べることができず、それは次年度への課題として残った。さらに、本研究の進展の中でその重要性を改めて感じはじめた、現代世界史のなかでの脱植民地化の位置づけという論点をめぐっては、平成10年6月に東京大学社会科字研究所のシンポジウムで、11月に大阪外国語大学のグローバル・ヒストリー研究グループでの報告を行い、研究成果の一端を岩波書店の『世界歴史』第24巻の総説的叙述のなかで公にした。この点もさらに深め、英帝国内の諸地域をめぐる脱植民地化の比較研究という視点に、世界現代史のなかでの各帝国の脱植民地化の比較研究という視点を重ねあわせる形で、日本ではまだ十分になされていない脱植民地化論の構築を行うことが、次の課題である。
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