本研究では、比較研究の前提として、まず脱植民地化過程についての理論的検討からはじめた。その結果、これまで必ずしも強調されてきていないが重視すべき点として、脱植民地化が単なる植民地支配・統治の終焉ではなく、世界体制としての帝国主義の解体の過程を意味するという点が浮かび上がってきた。このような視点からさまざまな地域の脱植民地化過程を考察していくことは、植民地の独立過程と国際政治の大きな展開との関連を多角的・重層的にとらえていくことにつながる。そうした視点から20世紀の国際関係の展開を鳥瞰してみる論文も、本研究の過程で発表した。また、脱植民地化研究を、政治的な脱植民地化に限定せず、経済的・文化的脱植民地化をも長期的にとらえていくという視点の重要性も、本研究の過程で改めて明らかとなった。本研究ではとりわけ文化的脱植民地化を重視し、帝国意識の変化という視点からそれに詳しい検討を加えた。その検討結果は、平成10年に本研究代表者が編者となって刊行した『大英帝国と帝国意識』という共同研究に生かしている。また、本研究ではイギリス帝国内部の比較とならんで他の帝国との比較という視点も重視し、フランス帝国や日本帝国との比較を行ったが、その内日本帝国の比較についての論文がドイツ語でドイツの専門誌に掲載された。これはかなりの関心を呼んだようであり、ドイツの代表的新聞であるFrankfurter Allgemeine Zeitungで、詳しく紹介された。この科研費でとりくんだ、イギリス帝国の脱植民地化研究を基盤としつつ他の帝国にも比較の視野をのばしていく研究方向の意味が、こうした国際的反応によっても確かめられた。
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