3ヵ年計画で開始した本研究の初年度として、平成9(1997)年度には、ヴァルガス政権期の移民政策と労働政策におけるナショナリズムの理念と現実を研究課題としてとりあげ、関連文献の収集、および入手済みの史資料や研究文献の検討に努めた。そのうち移民政策については、ブラジル1934年憲法の移民制限条項、いわゆる「二分制限法」に注目し、『伯国新憲法審議会に於ける日本移民排訴問題の経過』(1934年)など現地で刊行された史料に基づき、この問題をめぐってブラジル日系社会に高まった危機意識をあとづけた。国民統合政策が実施される中で、新着移民集団としてエスニック・マイノリティの意識が形成されて行く歴史過程と、そのエスニック・マイノリティの意識の内実に迫る手がかりを得ることができた。一方、この時代のブラジル知識人階層の代表的な国民性論である、ジルベルト・フレイレの『カザ・グランデとセンザーラー家父長制的経済体制下におけるブラジル的家族の形成』(1933年)の4、5章の翻訳を行い、東京外国語大学海外事情研究所の「研究資料」として刊行される予定であり、これによってこの作品の日本語訳がほぼ完成した。
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