本研究の最終年度にあたる今年度は、本研究が焦点を当てようとした20世紀前半のブラジルにおける(1)移民政策と労働政策におけるナショナリズムの理念と現実 (2)黒人および日系人のマイノリティ意識の形成と組織化 (3)人種諸理論の吸収・消化と「混血社会」論の登場、という研究課題に取り組むとともに、さまざまな機会を利用して成果の発表を行うよう努めた。出版物のかたちでの発表については、1999年中に3本の論文が刊行された。また、口頭での発表として、まず、1999年(平成11)年5月28日立命館大学で開催されたセミナー「向こう岸からの問いかけ-ラテン・アメリカより」において、「ジョアキン・ナブコとブラジルの奴隷解放運動」と題する報告を行い、奴隷制廃止後のブラジル社会においてアフリカ系人が占めることになる位置を展望した。また、2000年(平成12年)1月17-19日に国立民族学博物館地域研究センターで開催された国際シンポジウム「ラテンアメリカにおける国民国家、エスニシティおよび民主主義」では、「多人種・多民族社会におけるナショナリズムと民主主義-ブラジルの場合」と題した報告を行い、ブラジルを例として、ラテンアメリカで真の民主主義を実現するには、人種的・民族的マイノリティの存在と彼等の平等を求める運動の意義を認識することが不可欠であることを論じた。両者は、すでに文章化してあり、2000年中に刊行される予定である。 もっとも、本研究の研究課題はやや欲張りすぎたきらいがあり、結果的には、3年間で論文の形式にまでまとめ上げるに至ったのはほぼ(2)の一部と(3)の課題に限られたと言わざるをえない。ただし、(1)および(2)の課題については、一次史料の収集の面では大きな成果があった。とくに、1930年代のブラジル日本人移民については、本年度も引き続き神戸大学経済経営研究所の協力を得て、新聞切り抜き資料の整理に努め、索引を完成させた。これらの資料を駆使して、今後、一層研究を進めてゆきたい。
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