研究概要 |
本年度は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカ合衆国における黒人の人種意識についての検討を行った。主たる作業は、昨年度に引き続きWPA(Works Project Administration)と全国黒人改善協会UNIA(Universal Negro Improvement Association)のマイクロフィルム史料の解析を進めると同時に、マイクロ化された黒人新聞[The Washington Bee(1882-1922),The American Citizen(1889-1907),The Cleveland Gazette(1883-1945),Palmetto Leader(1925-1957)]を購入し、目録化を進めた。とくに、ヨーロッパからの移民が大量に流入したこの時期、アメリカナイゼーションの動きが強化される中で、人種についての認識が再定義され、アフリカ系アメリカ人の人種意識と国民意識も大きく変遷を遂げる過程に焦点を当ててリサーチした。「アメリカ」というディスコースの形成過程で、「アフリカ」というディスコースが具体的にどのように作用したかを今後も実証的に追跡して行く予定である。 また、この作業を進めるなかで、「人種」という概念が歴史的にも動揺していたことを重視して、この時代の人種理論・人種思想についての文献を収集すると同時に、今日の人種理論を、とくにポストコロニアルの「人種」論を中心にして検討した。これらの研究成果の一部は、歴史学研究会1998年度年次大会の近代史部会「近代社会とマイノリティ」において報告した。さらに、アメリカの多文化主義に関する論文集(東京大学出版会から近刊予定)でも、「人種」についての諸パラダイムについて理論的な分析を試みた。
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