本年度は、「黄禍」論的反応と国際経済との動き、特に東アジアの工業化との関連について明らかにした論文「世紀転換期イギリスのアジア認識」を公刊できた。 この論文によってアジア世界に対する「黄禍」論的反応については、一応計画当初の通り明らかにし得たと思われる。計画ではアジア以外の世界、とりわけアフリカなどを対象とする「黄禍論的反応」についても取り上げる予定であった。そこで、本年度はアフリカ関係の史料、文献の解読に重点を置いた。確かに、アフリカの人々は、たとえばズールー戦争でイギリスを苦しめたズールーの人々のように「恐るべき戦士」といったイメージを特たれていた。ところが、他方でアフリカの人々はきわめて単純で、洗練されていない人々、つまり未開な人々だというイメージも強固であった。このことが意味するのは、彼らアフリカの人々は知的にきわめて劣等であり、西欧の学問や科学を理解できないということ、ということはそれらを受容することもできないということであった。このように近代的な学問や科学を理解できない人々の怖さはきわめて限定的なものであったといえる。イギリスーヨーロッパの人々が、アフリカの人々に対してアジアに人々と同じ恐怖を持つことはあり得なかったといえる。ただし、アジア以外の世界に対する「黄禍論的反応」の研究はきわめて手薄であり、今回の研究でのアジアとアフリカについての比較によって得た結論は暫定的なものである。 本年度は本科研の最終年度であるのでこれまでの成果を別に冊子としてまとめた。
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