本研究は、19世紀イギリスの世紀末に現れた様々な形の「黄禍Yellow Peril」論的反応に注目することから出発した。黄禍論はいうまでもなく中国や日本などアジアを対象とするものであったが、本研究は対象を広げ、この時代に横行した非西欧人種への様々な恐怖や脅威をあおる言説、表象、イメージを「黄禍論的反応」ととらえ、それらが意味するところを探ろうとした。 アジアを対象とする黄禍論については、これまで注目されなかった図像史料や、エンサイクロペディアなどの史料を駆使し、かなりの程度明らかにすることができた。その成果は既に著書『図像のなかの中国と日本』、そして論文「世紀転換期イギリスのアジア認識」として公刊された。 アジア以外の「黄禍論的反応」についてはアフリカ関係の史料、文献を蒐集し、解読した。熱帯で生活するアフリカの人々が温帯でしか生活できないヨーロッパの人々を支配するだろうという言説や、あるいはズールー戦争でその勇猛さを知られるようになったズールーの人々に対する「恐るべき戦士」といったイメージは確認できた。しかし、アフリカの人々が、アジアの人々と同じような恐怖感をヨーロッパの人々に与えていたとは言えない。アジアの人々に対する恐怖感は、アジアの人々が西欧の力の源泉である近代的な学問や科学技術を身に付けることを前提とするものであった。ところが、アフリカの人々にはこうした知的な力はないと考えられていたのである。 今後は、本研究の課題遂行の過程で浮上してきたジェンダー・イデオロギーと非ヨーロッパ世界観との関係を明らかにするとともに、本研究を世紀転換期という時代設定においてさらに深めたいと考えている。
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