1 アリストファネスの喜劇を素材として、当時の世論のあり方を考究した。まず、「戦争」についての見方を調べ、彼の喜劇が政治に人々の耳目を集めさせるものでありながら、政治を人々から引き離す効果を持ったであろうことを見出した。ついで、「ポリス」についての彼の考え方と世論との関わりを検討し、「ポリス」というものの具象度、抽象度によって世論のあり方を説明できるだろうことを示し、また具体的に前405年の世論がどう移り変わったかを明らかにした。 2 アテナイにおける外人と裁判との関係を、碑文史料を中心に探り、その一般的傾向を明らかにした。その中で第5番弁論の持つ特性が、ほかならぬアンティフォンが弁論を書いたことにあることを示した。また、外人に関わる裁判官としてクセノディカイとナウトディカイのあり様を乏しい史料から推測した。 3 第5番弁論当時のミュティレネの状況がどのようなものかを考究した。それを示す欠けの多い碑文を見直し、新しい読みを提唱した上で、ミュティレネとアテナイとの関係のあり方を推測した。 4 アンティフォン弁論の年代を考究した。第6番年代決定の要となっている暦の問題を研究し、祭事暦と評議会暦との対応をいくつかのデータを与えれば自動的に明らかにするプログラムを作り、今まで419/8年のほかに416/5年も可能であることを示した。また、第5番に関連して、文体からわずかの年代の差を決定しようとすることが不可能であることを示し、内容から可能な年代を指摘した。 5 ギリシア宗教の特性を考究し、宗教をめぐる人間類型として、テミストクレス、ピュタゴラス、クセノフォンを考えることが出来るのではないかという試論を展開した。
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