本年度は、装甲鑑《A》問題の背景となる政軍関係を整理するために、ヴァイマル共和国中期に生じた《ローマン事件》に焦点をあて、軍部(国防軍)、政府、議会の関係の変化を探った。そして、海軍秘密再軍備が暴露されたこの事件の処理にあたって、とりわけ新国防大臣ヴィルヘルム・グレーナーの手腕のもとに、政府と軍部の接近が図られたことを指摘した。もちろんこのことは、軍部がヴァイマル共和国に順応したという意味ではなく、むしろ非合法の再軍備計画のために政治的な安全を調達しようという、軍部の戦術的な方向転換でしかなかったと思われるが、装甲鑑《A》問題が浮上する時期に、すでに軍部対政府・議会という対立関係から、軍部・政府対議会という対立関係に政軍関係が変化していたことを意味するものと考えられる。そしてこの変化は、やがて軍部と政府の再軍備活動に対する議会のチェック機能を弱めることになり、装甲鑑《A》問題の帰趨に関しても大きな影響を与えることになったと思われる。 以上については、すでに「ヴァイマル共和国中期の政軍関係と《ローマン事件》」として論稿をまとめたが、次年度は、この作業と平行して収集した国会議事録、内閣議事録、軍事資料などをもとにしながら、装甲鑑《A》問題と政軍関係、さらにはこの問題の軍事的意味にも立ち入ることにする。
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