本研究最終年の本年度は、交付申請者に記載した研究計画に基づき、デンマーク初期絶対王制の構造に関する研究および法的基盤(特に1683年に交布された『クリスチャン五世のデンマーク法(以下、デンマーク法、と略)』に関する考究を中心に行った。具体的にはまず、関西学院大学中央図書館への調査出張により得られた資料を基に、クリスチャン五世の治世後半(1679-99)に焦点を当てて、絶対王政を確立させるために如何なる政策が実施されたのかを考察した。その研究成果の一部が拙稿「スコーネ戦争(1675-79年)後のデンマークにおけるクリスチャン五世の絶対主義政策」『北海道東海大学紀要(人文社会科学系)』第12号、2000年3月、である。この論文が取り扱った期間に様々な政策が実施されたが、とりわけ重要なのが「デンマーク法」の公布と1688年の土地登録であった。これらにより、初期絶対王制の法的基盤と経済・社会的基盤が固まったいえよう。また、クリスチャン五世が晩年に国王を中心とした、いわば国王絶対主義を実現させようとしたことも明らかになった。 デンマーク法に関しては、その制定過程から旧来の地方法をベースに新体制である絶対王制に相応しい全国法の制定が意図されたことが明らかになった。絶対主義そのものに関しては、国王の権利と絡めて第1巻第1章第1-6節に規定されている。また当時のロシアやポーランドにまで影響を与えたと言われるデンマーク法は、17世紀後半という時代に関しては刑罰が一般に人道的であるなどヨーロッパでも進歩的な法律であった。この法律の制定・公布によりデンマークは史上初めて全国的に通用する法典を得、それがその後約160年間に渡ってデンマーク(絶対主義)社会を規定していったのであった。このデンマーク法の内容をより仔細に考究することを通じて、デンマーク絶対王制の構造が今後更に明確になっていくだろう。
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