今年度は研究計画の第一年目にあたり、おもに研究の基礎作業をおこなった。 まず、研究のいわば幕開け論文として、『岩波講座世界歴史』に「開発原病の世界史」を発表した。いくつかの重要な先行研究に依存しつつ、「アフリカ眠り病」、「河川盲目病」、「黄熱病」、「マラリア」という四つの代表的な開発原病について自分なりの大きな全体像を描いたもので、この種のテーマとしてはおそらく日本で最初の研究論文であって、今後、具体的なテーマに取り組むさいの出発点となるはずである。 つぎに、開発原病という概念は古代農業革命期から現代の発展途上国にいたるまで広い範囲に適用しうるものであり、したがって、単独の研究を進めるかたわら、共同研究の計画も進行させた。扱う時代は一九世紀後半から二十世紀前半のアジア。私は開発原病の世界史のなかにそれを組み入れて、鳥瞰的な展望を描き、他の研究参加者はより個別的なテーマにしぼって議論を進めることになっている。今年度は参加予定者との研究会や個別の打ち合せ等をおこなった。この計画については、来年度中に原稿の取りまとめ作業まで進行させたい。 さらに、各種の伝染病、栄養状態、発展途上国における農業開発などについての基本的な文献や論文の蒐集をおこなった。 最後に、住血吸虫病にかんする研究文献を蒐集し、読み進めた。この病気も開発原病の範疇にはいるものであり、とくに水源開発と深くかかわり、植民地時代以降のアフリカで深刻化し、事態は今日もさほど改善されていない。開発原病の諸問題を考えるうえで、かっこうの材料を提供してくれるのではないかとの見通しをもっている。
|