開発原病現象は1970年代以降に注目を集めるようになったもので、古代農業革命以来「進歩」のために自然を破壊せざるをえなかった人類社会の「宿痾」である。 この研究はそのような視点から、古代から現代にいたるまでの人類の病気体験についてできるだけ幅広くデータを集めて、それらを分析してきた。また、それと平行して病気と社会の関わりをよく示すような個別のテーマについても研究してきた。その成果をまとめると次のようになる。 1.明治期日本は西洋にならって検疫を実施しようとしたが、その西洋列強はさまざまな理由でそれを妨害した過程を概観した。 2.14世紀に流行した黒死病は、死亡率の点ではヨーロッパ史のなかで最大の天災となった。そして、極限状態におかれた当時の人々がパニック状態に陥って、ユダヤ人虐殺をおこなったことはよく知られている。しかし、実際には、多くの人々は以外に冷静に事態に対処したことが最近、いわれるようになった。そうしたことを紹介しつつ、病気のインパクトについて考察してみた。 3.17世紀中頃、イギリスはロンドンを中心に最後のペストの流行をみ、それ以降、ペストの流行から解放される。それを17〜19世紀のイギリス人はどうみたのかをまとめてみた。 4.開発原病そのものについては、平成12年2月までに書き終える予定の論文「病気と医療の世界史」で総括的に論じている。そこでは、外圧としての近代化という観点から非西洋世界の開発原病について多くの問題点を提起するはずである。
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