ギリシア人の歴史思想の比較研究を行うために、代表的歴史家としてヘロドトス、トゥキュディデス、クセノポン、ポリュビオスの4人を選び、キ-・ワードと考えられる語彙の用例を、彼らの史書から網羅的に検索・抽出するという作業は、当初考えていた語彙についてはかなり進捗し、ある程度の基礎資料をととのえることができた。 他方、そのようにして収集された用例を対比・分析し、比較研究するという課題については、いまだ確かな展望を持ちうるにいたらなかった。その理由は、考察の対象となる歴史家それぞれに関して、過去の研究史を可能なかぎりフォローしておくという手続きに、予想以上の時間をとられたことである。ポリュビオスを別にすれば、この面での準備は不十分というほかなかったし、また蓄積された膨大な研究に思いをはせれば、そもそも十分な準備ということは考えられないが、仮説を構築するにあたって、最低限の予備考察は不可欠であった。さいわい、多少の感触は得られたので、次年度は、ギリシア人の歴史思想の特質について、いくつかの仮説の構築と検証を追究したい。 なお、こまかな点にわたるが、「語彙の網羅的検索」という心づもりは、用例としての採否の判断がむずかしい場合もあることがわかり、あくまで努力目標ということにせざるをえなくなった。また、派生語と類語の取り扱いに、なお考慮の余地のあることが、しだいにあきらかとなってきたため、鋭意検討中である。しかし、そうしたことによって、結論が曖昧になる心配はないはずと考えている。
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