平成9年度から11年度にかけて3年度に亘り、研究課題である「亀ヶ岡式文化における地域性の把握」について、調査を遂行してきた。主な調査対象は各都道府県の埋蔵文化財センターや教育委員会に所蔵される大洞C1式土器の文様装飾のうち、ネガ文様に注目して、ミクロな文様構成要素に分解し、各要素がどのような一般的な法則性のもとに組成を成立させているかを分析した。青森県槻木遺跡、土井1号遺跡、岩手県上鷹生遺跡、獺沢貝塚、中沢浜貝塚、山形県漆坊遺跡、北柳遺跡、高瀬山遺跡、作野遺跡、湯沢遺跡、秋田県では戸平川遺跡などを尋ねて資料を収集し、土器の実測作業や写真などによって記録しながら推進した。その他に、報告書等で既に報告されている資料についても要素を抜き出して、分析の対象にした。分析の対象にした数百個体の土器すべての文様を、ミクロなネガ文様の要素に分解し、個別に要素数をカウントし、実数として把握できたのは、従来の研究には無かった新しい成果であった。これらは今後の統計分析の源泉をなす。初歩的な統計分析によって、それらは土器型式間で一般的に自由な組成を成立させるが、数多の要素群中には、特定の要素間で頻繁に組み合わせを生じる「親和的関係」と、逆に組み合わせが生じ得ない「忌避関係」があることを示すことができ、さらにそれらが要素間の組成として独特な地域的まとまりをなすことが遺跡分布の上から確認された。それらは大洞C1式土器の装飾から見た地域差として把握される。それだけでなく特定の要素そのものに地域性が発現していることを窺い知ることができたことは、亀ヶ岡式土器の文様装飾に見る地域性の発現の仕方に、一面的でない重層的なあり方があることを予感させ、今後の研究に重要な示唆を得た。
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