攻撃用武器としての弓矢の実用性については、矢の飛距離と貫通力が大きな要素を占める。同一条件下であれば、貫通力には鉄鏃の形状が、飛距離には、主として鉄鏃の重量が関係する。各地の古墳から出土した鉄鏃には多種多様な形があるが、それらをもとに復原した各種の矢を復原丸木弓で試射した結果からは、古墳時代の弓矢は、戦闘の場面においても、攻撃用武器として十分に機能したと考えられる。防禦具には、木製盾、革製漆塗盾や木製甲、鉄製甲冑がある。先端が細く尖った細根式や長頸鏃は、貫通を目的としたものであるが、大形で重量のある鉄鏃については、従来、攻撃用武器としての実用性に疑問がもたれていた。しかし、試射した結果からは、貫通力は劣るとはいうものの、板を割るような衝撃を与えうることから、木裂盾や木製甲等の防禦具に対して効果があると考えられる。逆に、重い鉄鏃に対してば、鉄製甲冑が有効な防禦具となりうる。 弥生時代から古墳時代にかけて、鏃は石鏃・銅鏃から鉄鏃へと変化していくが、5世紀になると、さらに細根式鉄鏃、次いで長頸鏃が出現する。防禦具との関連で、出現時期だけを問題にすれば、攻撃-木製防禦具-重い鉄鏃-鉄製甲冑-細根式鉄鏃・長頸鏃という図式が成立しうる。ただ、防禦具に関していえば、各地の出土例からは、それに変わる新たなものが入手しえない場合は、従来のものが継続して用いられた状況が窺える。また、厚さを増す等の防禦性を高めることば、一方で機動性を損なうことになるため、そこには、一定の限界がある。したがって、戦闘方法が変化したり攻撃力が防禦力を圧倒的に凌駕する事態にいたれば、防禦具の内容もまた、異なってくる。時代は降るが、奈良時代末における鉄甲から革甲への移行には、このような状況が介在していた可能性も考えられよう。
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