遺跡の発掘調査に際して竪穴住居、什器、道具類、燃料、梁・土留めなど構築物の材料として木質遺物がしばしば検出される。これら木製遺物を調査することによって、生活域周辺の森林植生と木材利用史の一端を明らかにすることが可能である。特に比較的大型の木材を利用する竪穴住居の建築材料は、木材利用史の一端を明らかにするだけでなく、遺跡周辺の植生を推定することもできる。 北海道中央部地域の遺跡では、竪穴住居の建築材としては主にトネリコ属やコナラ属コナラ属コナラ節などの樹木が多用されている。それら樹木利用の地域的な差異をみると、主にトネリコ属材は、日本海側の地域で、またコナラ節材は太平洋側の地域で多用される。他方、時代的な差異を見ると、日本海側では時代に限らずトネリコ属材が使用されるが、縄文時代中期末葉以降になると主に丘陵地に生育するコナラ節材が多用されるようになる。 道央地域での住居建築材としてのトネリコ属材及びコナラ節材の地域的な使用状況あるいは時代的な移り変わりは、東北北部地域と極めて類似している。すなわち、東北北部地方の日本海側ではクリ材(縄文時代)とスギ材(奈良・平安時代)が、また太平洋側ではクリ材(縄文時代)とコナラ節材(弥生・古墳・奈良・平安時代)が多用されている。 このように、この地域で縄文時代から擦文時代・アイヌ文化の時代に至る長年月にわたって、トネリコ属およびコナラ節など特定の樹木が多用され続けるのは、それが植生環境だけに規制されたものではなく、木の文化ともいうべき木材利用の文化が連綿と受け継がれ続けてきたことによるものと推察される。
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