研究課題の遂行へ向けて、平成9年度は次のような実地調査を行なった。まず、内間は沖縄北部の未調査地域である国頭村奥方言を平成9年9月9日から20日にかけて調査した。奥方言はこれまでほとんど調査されてなく、その実態報告もほとんど皆無である。そこで基礎資料を整えるべく音韻、動詞の活用、形容詞の活用、助詞、語彙の各々について比較的詳しい調査を行なった。現在その資料を整備しているところであるが、分析し考察するまでにはいたっていない。ただし、調査の過程でも下記のような当方言の特徴的なことが浮かび上がってきた。 1 音声的に国頭方言特有の有気・無気の対立が見られる。 2 人称代名詞では奄美方言につながる語形があらわれる。 3 音韻では、ワ行子音が[gw]となる現象がある。たとえば、[gwahamunsa : ](若者)[ gwaCi : ra](分ける)[gwarera](笑う)[gwat∫i](脇)。もちろん[w]となるものもある。[waira](割る)[wakura](湧く)[wa∫irira](忘れる)[wara](私)。一方、宮古・八重山方言ではワ行子音は[b]となる現象がある。この[b]と[gw]は決して無関係であるとは考えられない。両者の関係を考察するには日本祖語の想定も必要となろう。 4 カ行子音は[h]となる。 上記の調査以外に、研究補助員に未調査地域にあたる国頭村辺野喜方言の調査を委託した。調査期日は平成9年9月9日から24日にかけて音韻・活用の調査を実施している。その結果、辺野喜方言でも奥方言同様ワ行子音は[gw]となるということがわかった。しかも、奥方言よりも出現率が高いようである。また、カ行子音は[h]、タ行子音は[s]となる現象も見られ、言語学的に非常に貴重な資料が得られている。一層の調査が必要である。
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