研究課題の遂行へ向けて、平成10年度は次のような実地調査を行なった。まず、内間は沖縄南部の未調査地域である渡嘉敷村渡嘉敷方言を平成10年9月8日から19日にかけて調査した。渡嘉敷方言はこれまでほとんど調査されてなく、その実態報告もほとんど皆無である。そこで基礎資料を整えるべく音韻、動詞の活用、形容詞の活用、助詞、語彙の各々について比較的詳しい調査を行なった。現在その資料を整備し、分析考察しているところである。これまでのところ、下記のような当方言の特徴的な面が浮かび上がってきている。 1 総体的には、首里・那覇方言に近い体系を持つ。 2 従って、音声的には国頭奥方言などとは違い有気・無気の対立が見られない。 3 カ行音も南部方言的で、カ・キ・ク・ケ・コは[ka][t∫i][ku][ki][ku]となる。 例[kad〓i](風)、[t∫i〓](着物)、[kumu](雲)、[ki:](毛)、[ku:](粉)。 4 ハ行子音は日本語では、p(文献以前)→Φ(奈良時代から室町時代)→h(江戸時代)と史的変化を遂げてきたものと考えられている。渡嘉敷方言は、まさにΦからhへ変化しつつある方言であることが今回の調査で判明した。例えば、「鼻」は[Φana]であるが「花」は[hana]という。また「火」は[Φi:]、または[ci:]ともいう。これは室町時代から江戸時代へかけての変化を垣間見せるものとなっている。 上記の調査以外に、研究補助員に未調査地域にあたる国頭村奥方言の調査を委託した。 調査期日は平成9年9月10日から19日にかけてであり、音韻・活用の調査を実施している。その結果、前回の調査不備をいくぶん補うことができた。調査はこれで十分ということはなく、調査の度に言語学的に非常に貴重な資料が得られている。
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