「沖縄県国頭郡辺野喜・島尻郡座間味島方言の調査研究」というテーマで、平成9年度から平成11年度にかけて科学研究費補助金の交付を受け、沖縄本島の未調査地域の調査研究に着手した。平成9年度には国頭郡辺野喜・奥方言、平成10年度には島尻郡座間味島の近く渡嘉敷島渡嘉敷方言の調査をそれぞれ実施した。調査は音韻、活用(動詞、形容詞)、助詞、語彙の各分野にわたって実施し、体系記述を行なった。その結果、音韻でいうならば、辺野喜・奥方言では次のような特徴が見出された。 (1)ワ行子音が[gw]となる現象がある。[gwahamunnsa〓](若者)[gwa〓i〓〓](分ける)[gware〓〓](笑う)[gwat∫i](脇)。もちろん[w]となるものもある。[wai〓](割る)[waku〓](湧く)[wa∫iri〓〓](忘れる)[wa〓](私)。これは琉球方言の中でも特異な現象であり、国頭方言でも主に辺野喜方言と奥方言に見られる現象で、日本語音声研究にも貴重な資料である。当音声は両方言とも現在衰微の傾向にあり、それだけに今の時点で記録に留めえた意義は大きい。 (2)奥方言では有気と無気の対立が見られる。[t^?ubi](帯)と[tubi](飛び)。ただし、その対立も衰微の傾向にある。 (3)カ行子音は[h]となる。[habi](紙〕[hani](鐘)。 一方、渡嘉敷方言では次のような特徴が見出された。 (1)全体的には首里・那覇方言に近い体系を持つ。 (2)ハ行子音は[Φ]から[h]への変化の過渡期にある。 音韻を見ただけでも、琉球方言の多様性は言語学的に貴重である。それでいて、未調査方言が多く残されている。今後の課題はその未調査地域の実態をできるだけ明らかにすることである。
|