1.原本調査及び訓読方法の解明 本年度は日本国内に散在する文選古鈔本の内、『文選集注』及び古鈔本相互で比較検討が可能な巻に焦点を絞り、九条本と五臣注本(天理本)の原本調査(一部マイクロフィルム)を行ない、以下のような知見を得た。 (1)九条本は、伝来の古さを示す特徴が見られるが、紀伝道各家の文選学が総合されているテキストであり、注釈書の利用も巻による違いの他、同一巻内での違いも存し、個別の詳細な調査が必要である。 (2)五臣注本は、本文部分のみに加点され注釈部分(五臣注)には加点が無く、加えて五臣注本独自本文にも全く加点が無く、訓読の背景には五臣注の利用とは異なる問題の存することが推測される。 なお猿投神社本についてはマイクロフィルムの入手を行ない、また上野本漢書楊雄伝天暦二年点は本文上、文選巻第四と重複する部分が多いので、調査資料が蓄積されている北海道大学において資料収集を行なった。 2.電子化テキストの作成及び電子化処理に伴なう問題の検討 古鈔本・訓点資料を電子化テキストとして処理して行く場合の問題について、高山寺典籍文書綜合調査団による処理方法に注目し、前年度に引き続き情報収集を行なった。 3.訓読方法の実態を解明する上で不可欠な注釈書(『文選集注』)の解読と電子化処理 『文選集注』巻第九について、古鈔本との精密な比較対照作業が効率的に行なえるように集注部分の精密な解読を行ない、その結果を電子化テキストとして一部分処理した。残る『文選集注』については、福井大学所蔵の覆製本で閲覧を行なった。
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