密参録は、参禅者に出す課題(古則・公案)とその解答方法とを記したもので、多く『碧巌録』『臨済録』『無門関』から古則を取り、抄物文体で書いてあるので、抄物の一種として、言語研究資料として利用し得るものである。主として臨済宗の大応派・幻住派の僧によって作成されたもので、曹洞宗僧の手になる門参に対応するものである。ところが、言語研究資料として注目されることが遅れたために、どのような資料がどのくらい伝存しているのかさえいまだ明らかでない。本研究は、密参録を発掘し、目録を作成して、日本語研究資料としての有効性を明らかにしようとしたものである。 1、発掘・整備と目録作成 京都大学総合人間学部所蔵の『密参録』(室町末期写 一冊)をはじめ新資料の発掘につとめ、約80点の密参録を把捉し、これを、まず作成者の法統の違いによって、大応派大徳寺系・同妙心寺系・幻住派聖福寺系・同円覚寺系・その他に類別し、ついで、古則の出拠の違いによって、『碧巌録』・『臨済録』・『無門関』・その他に分け、それぞれの中を時代順に配列して、目録を作成した。 2、日本語研究資料としての有効性 (1)時代が下がると、問答の形式化が進み、それに並行して文体も画一化するが、中には、生きのよい問答を記録していて、語詞を中心として俗語的表現が豊かな資料もある。 (2)幻住派の密参録には九州方言や東国方言が拾える資料がある。 (3)問答に説話が利用されることがあるので、中世説話文学研究の視点からも注目される。
|