1.今年度に実施した、主な内容。 (1)東京の国立文化財研究所などに所蔵されている、明治末から大正期にかけての上方落語のSPレコード資料を調査し、録音可能なものについては、最良の音を再生できる特殊技術者に録音を依頼し、それによって収集できた録音資料を利用して、学生アルバイトの協力を得ながら、その一部の録音文字化資料を作成した。 (2)これまでに印刷・公表されている、速記・録音文字化などの文献資料を調査・収集した上で、それらの資料に出現しているテンス・アスペクト形式や存在表現のの用例を採集し、明治期におけるテンス・アスペクト形式について、そのアウトラインと体系的な特徴を調べた。 2.これまでに得られた新たな知見。 (1)明治中期の落語速記本、および、明治後期の落語SPレコードについて調べた範囲では、当時の存在表現とアスペクト表現は、大筋においては、現代大阪方言にかなり近いものであることが分かった。 (2)そうした中で、動詞「ござる」の尊敬用法、動詞「ごあす」「ごわす」「ごます」の使用、アスペクト形式「したある」の多用、などは、現代とは異なる古い特徴が見られる。 (3)(これについては今後更に調査を進める必要があるが)当時隆盛をきわめていた「テ(ヤ)敬語」と密接な関わりがあるらしいことが明らかになった。 (4)「しよる」形は西部方言一般には進行相を表わす形式として広く分布しているが、大阪方言では卑罵形式として用いられている。「する」と「しよる」のアスペクト的意味における対立はない。これは、中世語「しおる」形より受け継がれた特徴である。
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