研究概要 |
奄美諸島方言と南九州方言との語彙の対照研究を通して,日本の二大方言である本土方言と琉球方言の異質性と同一性を明らかにすることが本研究の目的であった。そのために,南九州方言と奄美諸島各地で,身体部位称語彙の調査をおこない比較考察した。 従来の語彙研究では,たとえば琉球方言のmi:には,本土方言の「目(め)」をあててことたれりとしていたが,その内実は単純ではない。本研究では,目の複合語や慣用句まで,目に関わる表現すべてを対象にして抜き出し考察を進めた。その結果,「目」の意味が観念的であるのに対して,琉球方言では,「目」そのものの部位の機能を残したまま把握のしかたをしていることが多い。「目から火が出る」「目を三角にする」「目の色をかえる」「目尻がさがる」「目をふせる」「目もくれない」などの,「目」の中核的意味からの比喩的派生的言いかたが,本土方言(全国共通語)ではさかえている。それに対して,琉球方言では,mi:turarjun(目をとられる→目が眩む)mi: utigikunajun(目が落ちそうになる→注目する)など,身体部位としての「目」の意味が残っている。 本土方言の「目」と琉球方言のmi:(目)には,われわれの想像以上の差が見てとれる。 身体部位称全般にわたっての,このような観点からの対照研究が求められる。
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