本研究「『日本霊異記』の総合的研究」においては、わが国最古の説話集である『日本霊異記』の総合的注釈書を完成させることを最大の目標にしている。数種の有力写本を校勘して定本とすべき本文(漢文体)を確定し、それを訓み下した上で、現代語訳を付し、語注と補説を加えるという方針で作業を進めた。実際には、その作業は科学研究費補助金の交付以前から進めてはいたが、補助金の交付により、本文の書誌調査、あるいは注釈を加えるにあたって疑点となっていた箇所のかなりの部分を具体的に解明することができた。これまで複製本等を参考に本文の比較・検討を行ってきたが、いくつかの図書館・文庫等を訪れることで、写本類を披見し、本文確定のための有益な情報を得ることができた。また、沖縄県沖縄本島および石垣島での調査により、ト占によって死者の死後の転生を知る習俗が仏教流入以前から存在することを具体的に確認しえたが、その調査を通じて『霊異記』における巫覡の活動の実態を解明する上での大きな知見を得ることができた。この問題はきわめて重要であり、来年度も鹿児島県奄美諸島の事例(マブリワ-シ)を調査することで、さらに理解を深めていきたいと思っている。『霊異記』の注釈は本年度末までにすべて完成し、筑摩書房からちくま学芸文庫『日本霊異記 上・中・下』として刊行することができた。本年度は、上記の調査と並行して、本年度刊行した注釈書をもととする語彙・事項索引を完成させ、本研究をひとまず完了させたいと考えている。
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