研究課題
基盤研究(C)
出版文化の近代化について、近世後期から維新を経て明治期に至るまでの時期を対象とし、出版者(社)と著者との関係を経済的・社会的側面から考究することを目的として共同研究を実施した。主として原稿料・印税と、それに関わる版権という二つに焦点を絞った。原稿料・印税では、近世後期の時期には既に知られている曲亭馬琴の日記・書簡以外に有効な資料を見出すことができず、他の文化人の日記・書簡類を探索中であり、今後も継続していく予定である。近代では作家や挿絵画家の日記・書簡・随筆・回想録などを基本資料として、他に出版社の社史・目録類を参考にして福沢諭吉から始まって明治四十五年までの原稿料・印税の年表を作成した。これもまだ増補しつつあること、それに文学を経済的側面から研究した論文はないけれども重要な視点であることは疑問の余地がないので、大正から昭和までに時代を拡大して資料を収集したので、いずれ年表を昭和年代にまで及ぼす予定である。版権では、近世の版権が元禄年間に確立していて、出版者がその版権を掌握していたこと、それが幕末まで続いていたことが判明した。その調査の過程で天保の改革時に一時的に出版者の所持する版権に関する考えの変更があったことを確認したので、天保の改革前後における地本問屋の様相を調査したが、版権の分析にまでは至らなかったが、地本問屋の主力商品の合巻の出版状況をデータを付して年表形式でまとめた。それに関連して、近代化の中での出版者の消長を捉えることにも意義を見出し、江戸の出版者全体の消長、京都の老舗菊屋七郎兵衛の出版状況をまとめた。さらに近代以後に創業した大坂の出版社と尾崎紅葉との関連資料を載せ、作家と出版社との関係の一端を明らかにした。