1. 江戸時代前より伝承され、少なくとも四五百年の歴史を有する説経節の台本調査と語りの録音保存を行なった。録音成果の内、新潟県佐渡郡新穂村・故寉間(つるま)幸雄氏による「信田妻」、及び東京都八王子市・故十代目薩摩若太夫氏の「薩摩派四十八節」(薩摩派系説経節の基本の節)のデジタル録音をおこなったものをCD化し、法政大学「多摩の歴史・文化・自然環境」研究会の協力の下で1998年3月・10月に出版した。この出版物は多摩の文化研究に資したものとして、法政大学多摩地域社会研究センターが平成9年より設けている、第2回多摩地区研究奨励賞を1999年1月に受賞した。 上記寉間氏所蔵台本は江戸時代後期より明治時代に書写されたものが多く伝えられており、江戸初期に大阪及び江戸で出版された説経節の台本をほぼ忠実に受け継ぐものと判明し、寉間氏の伝える語りが江戸初期の語りを伝えていると推定することに有力な裏付けとなることが知見される。 2. 平成9年より本研究のために収集している報告の内、神奈川県藤沢市教育文化研究所編・刊『藤沢の民話』に所載される二つの伝説及び語り物研究の泰斗で文化功労者保持者の故本田安次氏が記録された秋田県に遺る語り物ニ本が多摩地区に伝わる薩摩派系説経節の影響下に成立したものであることが判明し、『一橋論叢』第121巻第3号に発表した。 3. 埼玉県秩父郡横瀬町・若林保治氏所蔵台本調査及び録音資料の追跡調査を行ない、その台本が薩摩派系説経節の古色を留め、忠実なものであると判明し、尚継続して調査する必要性を痛感させられた。本研究の研究期間の残り1年間に鋭意解明していきたい。 4. 長野県上田市立図書館に薩摩系説経節の台本が所蔵されていることが分かり、調査の緒についたところである。残り1年間に尚継続して研究していく所存である。
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