本研究の目的は、江戸時代以前に成立し今尚伝承されている芸能である説経節の台本の書誌学的調査並びに録音・録画資料の記録保存であり、この作業を通して消滅の危機に頻している説経節の保存に助力することである。新潟県佐渡郡の霍間幸雄氏の語りが、江戸時代初期(寛文・延宝期――1660年代70年)の台本を忠実に留め語られているものであること、佐渡島内にかなりの拡まりがあったことを証明でき、霍間氏の語りのデジタル録音化を果たすことができた。江戸時代後期に再興された説経祭文に関してその歴史的実態は従来殆ど知られていなかったが、今回の伝本調査によって所蔵の実状がかなり明確になり、この調査を通して歴史的実態もかなり明確になった。それによれば文化文政期より弘化期(1804〜1848)迄正本が度々刊行され、当時の文化人にも注目されるものであったこと、江戸市中のみならず埼玉県にまで広く語り手がいたこと、神奈川県の伝説や歌謡や秋田県の語り物にまで変容伝播していたことが明らかになった。説経祭文の調査と並行して行なった録音作業の内から、十代目薩摩若太夫の語る、説経祭文の基本的な節「薩摩派48節」をデジタル録音化し、先の古い説経節の録音とともにCD化し公刊することができた。説経祭文の影響下に江戸時代末期に名古屋地方で生まれた説経祭文の諸本伝存の実態も明らかにした。一連の作業により、説経節の伝本の実状並びに録音資料の記録保存を前進させられたと考える。又、この作業中にも伝承者に助力できたが、これを機に今後も助力を続けていく所存である。
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