本年度は、遠方への調査に時間を割くことが出来ず、関東周辺のフィールドワーク調査と大阪中之島図書館所蔵の歌謡の調査に集中した。関東周辺のフィールドワーク調査では、横浜・横須賀・藤沢・小田原・大宮・熊谷・土浦・川越・浜松・下田など、昭和33年3月の売春防止法まで、遊郭として存在した地方を現地調査した。これらの地域において特筆すべき事は、文化後援会や地方文芸誌の刊行などの援助資金の多くが遊郭経営者の手によって行われたことである。遊郭経営者が、各地の文化土壌に影響を与えていたことは、江戸時代において俳諧を好み又演劇興業の資金援助者として、参加した例がよく知られているが、近年に至るまで文芸活動に大きな影響を与えていたこと。殊に本年度の現地調査の聞き取りなどで地方文学者育成にも大きな力のあったことが共通部分として浮かび上がってきたことは大きな驚きであった。又、地方政治家の輩出も遊郭経営者に多かったことも知り得た。これらは、遊郭経営者に幕末の勤王派支持や太平洋戦争時における右翼的活動の多かったこと等と関連して興味ある視点の発掘であった。 大阪中之島図書館所蔵の歌謡の調査を行った。「大新板色里町中大はやり/ちょいちょいぶし」「どっこいせぶし」「みよ志やいなぶし」「色里町中は屋里うた江戸吉原新作なぞかけ」「町々色里大はやり/世の中よいよいぶし」「志んぱん色里うかれもんく」「ささよごじゅうさんつぎ」「色里友千鳥「色里新歌かるた」「京名所かへ文章」「大坂色里名よせづくし」など、都会的雰囲気の歌謡の中にそのもっとも中心的存在として遊里歌謡の位置を確認し得た。又、このことの確認作業の中で、地方遊里で歌われた歌謡の多くが、三都中心に流行のものであること。そのー方で、各地の民謡に都会歌謡が大きな影響を与えていることも知り得た。
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