本年度は、大阪府立図書館・九州大学図書館・沖縄県立図書館を中心に、西日本の地方遊里の文献資料調査を主に行なうとともに、東日本、殊に関東地方の実地調査も行った。又、文学作品(仮名草子・浮世草子・洒落本・人情本・紀行文)・演劇(歌舞伎・浄瑠璃)関係作品・芸能(民謡・俗謡)関係作品の遊里関連の目録作成を行った。県史・市町村史を始めとする多くの地方資料に当たることを心がけたるとともに、現在残された地方遊里の実態をもとに、遊郭関連の年中行事を始め、各地の聞き書き資料のまとめに入った。又、戦後直後のいわゆるカストリ雑誌と呼ばれるものや、地方好事家の手による民俗・風習研究の中にも、地方遊里の実態を知る有益な資料が残存していることが明らかになり新たな視点でこれらの資料についても調査を行った。今年度の調査で注目されるのは、神社(玉垣・絵馬)・仏閣(奉納品)などや、遊女墓の実態が明らかになった点である。従来、遊女は投げ込み寺に入れられ、その墓の実態は極めて不明瞭なものがあった。しかし、地方の繁栄に寄与した、遊女の足跡や墓の建立は、各地の篤志家等の手によって手厚い保護がされていたことが明らかになった。又、沖縄の調査では、遊女(ジュリ)の墓が、先祖伝来の墓に一緒に埋葬されていることを明らかにしながら、ジュリと家族の結びつきが、本土(大和)のおける遊女とのそれとはまったく異なった様相を呈していることを調査した。今後この調査はアジア各地の実態調査とともに、近代化されたことによって生じていった遊里の変貌を踏まえながら、比較文芸等の視点を導入しながら総括していきたいと考えている。
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