研究概要 |
1,西鶴の営為と出版環境の相関についての研究に関して、 (1)「『本朝桜陰比事』の主題」(長谷川強編『近世文学俯瞰』所収)。『桜陰比事』の主題は、従来の名裁判官への賛美とされているが、西鶴の創作意図は談理へと傾斜しながらもそれでは満足しえず、さまざまな人心を解釈しようとするものであった。そこには「裁き」への賛美ではなく、苦悩と模索がうかがえた。 (2)「『本朝桜陰比事』序説」(『論集日本文学史論』所収)。(1)において『桜陰比事』から西鶴の主題追求における模索と苦悩を読み取ったが、それは「ちえ/小判壱両」以下の各巻の巻数名表示が、西鶴の主体的な設定でないことをうかがわせる。その表面的、観念的な提示は、苦悩とは無縁なもので、書肆が販売目的から西鶴に無断で初版初印に付したと考えるべきものである。西鶴の抗議もあって初版再印からは削除されている。そのような書肆との関係は以降の浮世草子の出版の空白につながる理由の一つでもあった。 (3)「『西鶴置土産』序説」(「鳴尾説林」第5号)。西鶴の遺稿が編集して出版されたことは当然だが、その編集過程に団水の助作・補作が想定されている。書肆と団水の関係、西鶴の草稿及び出版のあり方を検討することにより、西鶴の第一・二次草稿が、そのままの形で追善集に相応しく編集されていることを立証した。 2,勧化本については「当麻曼陀羅」の諸本を中心に調査を継続し、その受容と影響について考察している。 3,出版書肆の具体的な文化環境への関与について、 (1)「含笑舎桑田抱臍の伝記と活動-備後狂歌壇と京・大阪-」(「武庫川国文」第51号)。芸備の文化環境の具体相を抱臍の三つの狂歌集出版と京都の書肆野田藤八及び京・大阪の狂歌壇との関連を中心に論じた。
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